空白
「俺は娘が万引きしたなんて思ってないんだよ。」
「俺は充さんが親だったら、キツいっす。」
「俺には花音しかいないんだ。
失っても生きていくしかないんだ。」
「逃げずに向き合えば伝わるから。」
「今更理解者ぶるのは狡いです。」
「悪い事は悪いって言って良い。
正しい行動を悔いる事は無い。」
「善意の強要は、苦痛でしかないんですよ。」
「許せないのは、自分自身のくせに。」
「皆どうやって折り合い付けるのかなぁ。」
当事者だけなら単純な問題も、
無責任な第三者が介在する事で複雑になる。
悪意が人を苦しめ、
善意が人を癒すとは限らない。
悪意が不在でも苦しみ得るし、
善意の存在に苦しむ事もある。
償いだけでは人は救われない。
許しを得て初めて人は救われる。
何が人を苦しめ、何が人を救うのか。
完璧な満足を得られる正解が存在する程、
世界は単純ではない。
複雑な世界で折り合いを付けて生きていく事が
如何に難しくも、
如何に大切かも考えさせられた。
感情を持て余し、誰かにぶつけなければ
やり切れない様が実に生々しい。
予想よりも心を抉られる事は無かった。
娘を失った父親の悲しみや辛さは、
恐怖でも、狂気でもなく、
共感の範疇だった。