ある男

「脛に傷の無い奴なんていない。」

「(離婚してたの)知ってたら怖い。」

「最期まで色んな人に迷惑かけて。」

「大祐じゃないです。全然違う人。」

「じゃあこの人、誰なんです?」

「そんなに仕事が嫌なら、

逃げればいいじゃない。」

「正常な判断が出来ない程、

追い詰められていたんです。」

「顔だけは絶対変えちゃ駄目。」

「何で大祐の過去を欲しがったんですかね。」

「私は一体誰の人生と一緒に生きて来たのか。」

「過去を洗い流したい人間は一杯いる。」

「在日っぽく無い事は、在日っぽいという事。」

「また名字変わるの?僕次誰になればいいの?」

「犯罪者が描く絵って、

自分はそんな人間じゃないって叫んでる感じ。」

「人間は変わり得ないという立場で国家は

死刑を執行する。ただ人間は変わり得る。」

「家庭環境が人生に影響する。」

「人殺しの子なんて所詮つまらん男ですよ。」

「やっぱ親父の血継いでんだな。」

「親は親。子は子だし。」

「俺ボクシングでこの体を虐めてるんです。」

「今のお前の家族は俺達だろ。」

「他人の人生を追い掛けてると気が紛れる。」

「どんな境遇でも良いから、今の自分を捨てて、

新しい自分として生き直したい。」

「名前を変えても死刑囚の息子。」

「過去が消せないなら、

分からなくなるまで上から書くんだ。」

「本当の事を知る必要は、

無かったのかも知れない。」

「この街で彼と出会って好きになった事は、

はっきりとした事実ですから。」

林業は自分で植えた物は伐れない。

親が植えて息子が伐る。」

「好きに生きるのが一番ですね。

自分の人生は自分のものですから。」

 

嫌なら逃げれば良い。

口で言う程簡単ではない。

自分では無い別の誰かとして人生を生き直す。

人間誰しもが抱き得る願望だ。

但し周囲の人間の心には、

正体不明の人間と共に過ごした

時間の分だけ空白を生んでしまう。

正体を偽った本人だけではなく、

共に生き残された人間の視点からも

考えを巡らせられたのは良かった。

真実が事実よりも幸福とは限らない。

辛い真実より幸せな事実を支えに生きて行く。

それは逃避として非難されるべきではなく、

肯定的に受け入れられるべき生き方なのだろう。

自分は何者か。

胸を張って言える人間ばかりではない。

望まぬ自分自身と必死に折り合いを付けて、

懸命に生きる人間を包摂出来る

人間であり世の中でありたいと願う。