疑惑のチャンピオン

「俺はガンを克服したんだ。敗者になるなんて二度とまっぴらなんだ。」

「どんな薬より効くものがある。それは“生きる意志”だ。」

「自転車業界にとって最善策を取れ。」

「頂点に立つと、終わりが見える。」


心底胸が苦しく、悲しい気持ちにさせられる。

ランス・アームストロングという人生の物語。

これは彼自身が描きたかった物語であると同時に、

誰もが読みたかった物語でもあったのだろう。

業界、マスコミ、スポンサー。

そして一般の人々。

その中には、ガンを始め、病気で苦しんでいる人々もいただろう。

人生に絶望した時、彼の物語に本気で救われた人も大勢いるだろう。

彼の物語が偽りなら、その人々の物語も汚された気になる。

どんなに立派に見えても、砂上の楼閣はいつか崩れる。

「ヒーロー」という存在がもたらす恩恵は、彼個人の問題に留まらない。

彼から勇気もらった人の事を思うと、本当にいたたまれない。

またジャーナリズムにとっては、

「悪」とされている人間より、「善」とされている人間を追求する方が難しい。

人々が見たい真実を暴くのではなく、人々が見たくない真実を暴く方が難しい。

誰もが称賛する物語のままであった方が、精神的にも居心地は良かったかも知れない。

ただ、逆風の中で、それでも真実を追求し続ける記者に、

ジャーナリストとしてのあるべき姿を見た。