アジア旅物語

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このバンコクの街で、僕は完全に日本という国からも、

そしてこの街の中でも迷子になってしまった。

――― 小林紀晴



この本の中に、ちょっと先の自分を見たような気がした。

もし、自分が旅に出たとしたら、きっと直面するであろう感情。

もし、自分が旅を文章にしようとしたら、きっとこう書くであろう文章。

あまりにも自分に似通っているような気がして、

誰かの文章を読んでいるというよりも、

近未来の自分自身をシュミレーションしているかのような思いがした。


この著者と僕との一番の共通点を挙げるなら、

『旅への絶対視』だと思う。

今、この「日常」という現実には、何もなく

「旅」というものの中には、全てがある。

「旅に出れば、全てが変わる」

そんな幻想ともいえる憧れ。

さんざん逡巡した挙句、思い切って旅に出た著者が、

その憧れの中で、途方にくれている描写が、

手に取るようにわかった。


きっと旅に出たからといって、

誰もが旅人になれるとは限らないのかも知れない。

自分が夢の中で旅に期待しているものは、

現実の旅の中には存在しないのかも知れない。


なんとなく思う。

旅に出たら、頭で描いていたものには出会えない気がする。

ただ、頭で描ききれなかったものに出会うような気がする。

でも、それが自分を導いてくれるものになるかはわからない。

旅に全てを求めてはいけない。

でも、きっと何もないわけじゃない。

もし本当に何もなかったとしたら、

旅に途方にくれた彼が、旅を続けるはずはない。

何かわからないけれど、きっと何かはある。


「旅なんて幻想だ」

ただそれを、旅の途上で実感するまでは、

旅への憧れを捨てるわけにはいかない。


求めない 期待しない ただ あきらめない