「深夜特急」という呪縛
「深夜特急」
少年の日に、この言葉に出会ってから今までの十数年間。
この言葉は、ずっと僕の傍らにあった。
どこにいても、何をしていても、
「僕」という人間がこの言葉から根源的な部分において乖離することはなかった。
良くも悪くもずっとこの言葉に囚われていた。
夢であり、憧れであり、僕が目指すべき全てがそこにあった。
突き詰めてけば、
これ以外の全てのものは、全てが上滑りに通り過ぎて行った。
そんなこの言葉は、ある時点を境に様相を変える。
それまで「支え」であったこの言葉は、その年を境に「諦め」へと変わった。
「26歳で深夜特急の旅に旅立てなかった」
その思いがきつく僕を締め付けた。
夢を掲げる事の苦手な僕が、唯一大切に温めてきた夢だったのに…
「もう間に合わない…」
磁場を失った方位磁針は、指し示す方向が分からず、
ただぐるぐると回り続けるしかなくなった。
皮肉なことに、最も大きな障害となったのは、
「絶望的な不安定」ではなく、「中途半端な安定」だった。
大して守るものもないのに、守りに入っている自分がいた。
情けない自分につくづく嫌気がさした。
そんな中、偶然なのか必然なのか、一冊の本が発売された。
旅する力 深夜特急ノート
深夜特急「最終便」と銘打たれたこの本。
まさかあの続きが出ることになるとは。
本日、この本を手に入れた。
果たして、答えはこの本の中にあるのか?
あるかもしれないし、ないかもしれない。
唯一つ確かなことは、
この本を読み終わった時、それでも何も出来なかった時、
もはや「深夜特急」を傍らに置いて、この先生きていくことは出来ない。
ということだ。
ここまで書いてみると、正直読むのが怖くなってくる。
ただ、今このタイミングでこの本に出会えた事は、むしろ喜ばしいことはだ。
他の物で代替できるほど、この言葉は安くない。
これから、じっくりとページを手繰っていきます。
「じゃあ、明日から旅立ちます」
読み終わった時、そう言って旅立てる事を願って…