旅先にて

彼は、近頃ある言葉を口癖のように呟いていた。

いや、呟いてはいない。

元来、口数の少ない彼は、それを口に出す事はなく、事あるごとに、頭に浮かべていた。

何をしても、誰と話しても、何を思い描いても…

物事の大小、感情の喜怒哀楽、現在、過去、未来…

対象となるものは何でもよかった。

彼にとって、最後にこの言葉を付けられないものはなかった。

やがて慢性的にそれを繰り返していくうちに、

彼は存在する全てのものに意味を見出だせなくなってしまった。

そのたった一言のせいで。

いや、正確には言葉ではない。

ある平仮名一文字によって…









もし、仮にこんな書き出しで始まる物語があったとしたら

その平仮名一文字とは、何だと思いますか?

絶えず語尾に付ける事で、世の中からありとあらゆる意味を吸い取ってしまう

ある意味、恐ろしい一文字かも知れません。